竹島問題の歴史

9.6.07

1902年 外務省通商局編纂「通商彙纂」

外務省通商局編纂 通商彙纂とは、不二出版のサイトによりますと「本資料集は、外務省が編纂した領事報告の集大成である。「領事報告」とは、海外各地に駐在する領事が、本国政府に定期的に送付した現地の通商経済情報や貿易報告であり、一九世紀国際経済史上きわめて重要な役割を果たした。報告書の項目をみても、商業・工業・水産・農業・鉱業・交通・貨幣及び金融・関税・電報・時事・雑報等多岐にわたりかつ膨大である。日本資本主義の生成・発展段階及び、各国経済活動を克明に記録した第一級資料である。」とあります。 この付録の部分は当時の鬱陵島の事情を知る貴重な資料です。

この中には、いくつか竹島問題に関して興味深い記述が見られます。
まず、第一項「鬱陵島の地勢」の中で、鬱陵島の付属島である竹嶼(テツセミ島)と観音島(島牧ノ島峡)、そしてその他の小さな岩礁については言及がありますが、竹島(Liancourt Rocks )についての言及はありません。このことから、この時期の明治政府が竹島(当時は松島)が鬱陵島の一部やその付属島であったとは考えていなかったことが分かります。
文書の中でのテツセミ島は、竹嶼で、"デソム"という"竹島(現在の竹嶼)"の韓国式発音の日本語標記であると考えられます。また、観音島については、"島牧ノ島峡"が韓国語の"セモク"岬の日本式発音であると思われます。"島牧(とうもく)"の韓国式発音"ドモク"は"セモク"という純韓国式発音のことで、この"セモク"は、"島首”の意味です。"島首"の純韓国式発音は"ドハン"であり、1882年に李奎遠が観音島を島項(ドハン)と呼んだ事と呼応するのです。
竹島について、第七項「漁業ノ状況」のなかで“松島(現在の竹島)”での漁について言及がありますが、そもそも島の韓国人には外海への航海に耐えうる船を所有するものは居らず、そもそも韓国人漁師は夏に本土から若芽採集にやってくる者以外は島には全くおらず、松島(現在の竹島)に渡って漁を行っていたのは基本的には日本人漁師であった事が明白です。原文画像と英文はこちら

以下に原文を掲載します。(一部読めない部分は●で示しました。また、読みの難しいものは一部カッコ内に読みや意味を示してあります。)



付録 韓国鬱陵島事情
地勢、在島韓民ノ情況、物産、船舶碇泊場、本邦在留人概況、商況、漁業ノ情況、気候、伝染病、組合規約 (外務省通商局)

第一、鬱陵島ノ地勢
鬱陵島ハ江原道蔚鎮ヲ距ル四拾里全洋ニ在ル一弧島ニシテ周回九里半余其形状不等三角形ニ似タリ全島ノ海岸ハ断岩絶壁ニシテ渚浜少ク随テ大船巨船ヲ入ルヘキ良港ナク僅カニ道洞、苧洞 其他二三ノ小湾小曲江アルノミ而シテ沿岸ノ海底ハ多クハ岩石ニシテ船舶ノ投錨碇泊ニ便ナラスト云ヘリ
地勢ハ山岳連亘シテ平地担路至テ少シ往昔ハ全島森々タル樹木繁茂シ蓋し晝尚ホ暗キノ觀アリシモ今ヤ島民ノ繁殖スルニ従ヒ海岸付近ハ一體ニ伐木開拓シテ農作地トナセリ
ヲツセミ島ハ臥達里ノ前洋ニ在リ本邦人之ヲ竹島と俗称ス周回三拾丁余「タブ」女竹繁スト雖トモ飲料水ナキヲ以テ移住スル モノナシト云フ、又亭石浦ノ海上ニ雙燭石及島牧ノ島峡アリ周回二十丁本邦人之ヲ観音島ト称シ其岬ヲ観音岬ト云ヒ其間ヲ観音ノ瀬戸ト呼ヘリ、又雙燭石ハ三岩高 ク樹立スルニヨリ三本ノ名アリ、其他 周園ノ海岸ニ数箇ノ峻巖アリシモ一モ名称ナク唯タ光岸ノ前面ニ俵島アレトモ至ヲ小島ナリトス
羅里山ハ本島ノ中央ニアリ連山重嶂中最モ高ク聳ヘ大樹喬木鬱蒼トシテ天ヲ覆ヒ降雪ハ四時結氷シテ溶解セサルニヨリ其ノ山?ニ入レハ夏尚ホ寒シト云フ。而シテ其半腹ニ約八丁四方平坦ナル地アリテ韓民等農耕ニ従事スト雖トモ瘠地(やせ地)ニシテ大豆麦作ニ適サルヲ以テ大概唐黍(とうきび)ヲ作リ居レリ、錐(きり)山ハ羅里洞ノ北方ニ突起シ羅里山ニ比スレハ稍(やや)高ラスト雖トモ崔嵬(さいかい)タル岩山ニシテ頂上ニ樹木繁生シ海岸ニ聳立スルヲ以テ人皆之ヲ本島ノ高山ト称セリ、其他蓊鬱(おううつ:草や木が盛んに茂っているさま)タル連峰島中最大ナル渓流ハ南陽川、台霞川ノ二川ニシテ之ニ亞(つ)クモノハ遍伏、竹岩等ノ諸流トス、ソノ渓流ハ四時涸ルルコトナク水質純良ナルヲ以テ島民一般飲料用ニ供セリ

第二、在島韓民ノ状況
本島韓民ハ古来永住ノ者ナク今ヲ距ル廿一年前江原道ヨリ始テ裵季周、金大木、卞敬云、田士日ノ四名渡航シ同行者ハ協力ヲ以テ山間ヲ開拓シ畠地ヲ作リテ農耕ヲ業トセリ、然ルニ其翌年ニ至リ江原道江陵地方ヨリ黄鐘海、崔島守、田士雲、金花椒、洪奉堯、李孫八及全羅道地名不詳張敬伊ノ七名来島セシ以来年々歳々江原慶尚咸鏡全羅ノ四道ヨリ移住スルモノ多クシテ何レモ各地ニ散在シ精励以テ開墾ヲ為シ専ラ農業ヲ営ミ漁業ニ従事スルモノハ僅少ナリトス而シテ本島ノ東南面地質黒色ニシテ朝鮮本土ニ比スレハ地味好良ナルモ西北面ハ瘠地ナルヲ以テ農作ハ豊穣ナラスト云フ一般ノ風俗ハ寔(まこと)ニ淳朴質素ニシテ凶暴、残忍ノ齊儕(ともがら)輩ナク到ル処往々書堂ヲ設ケ児童ヲ集メテ孔孟ノ教ヲ授クルノ村夫子漢学一般ニ行ハル故ニ人情温厚誠実ニシテ彼我貿易上ニオイテモ曾テ紛櫌ヲ醸シタルコトナク在留本邦人トハ常ニ直接ノ関係ヲ有スルニヨリ至テ円滑ナリトス
一、村名戸数人口(×印ハ本邦人戸口数)
道洞- 27 戸、× 36 戸 (男307, 女79)
遍伏洞 - 10 戸; × 2 戸 (男6, 女2)
中嶺 - 30 戸; × 2 戸 (男4, 女2)
通亀尾 - 20 戸; × 5 戸 (男23, 女7)
窟巖 - 7戸
山幕谷 - 26 戸
香木洞 - 17 戸
新村 - 35 戸; × 1 戸(男1)
錐山 - 7 戸; × 1 戸(男1) 千年浦 - 6 戸
天府洞 - 16 戸
亭石洞 - 20 戸
乃守田 - 11 戸; × 2 戸 (男5, 女4)
砂工南 - 2戸
沙洞 - 40 戸; × 2 戸 (男9; 女3)
新里 - 7 戸
間嶺 - 10 戸
南陽洞 - 57 戸; × 9 戸 (男26, 女12)
水層々 - 1 戸; × 1 戸 (男2)
台霞洞 - 34 戸; × 6 戸 (男15, 女4)
玄浦 - 50 戸
光岩 - 10 戸
羅里洞 - 30 戸
昌洞 - 6 戸; × 2 戸 (男2, 女2)
竹岩 - 11 戸; × 5 戸 (男14 , 女6)
臥達里 - 2戸
苧洞 - 62 戸; × 5 戸 (男7, 5女)
の二十七ヶ村ニ小別ス人家ハ多ク渓間ニ沿ヒ或ハ畠中海岸ニ三々伍々散在シテ人煙稠密ナラス僅ニ羅里洞ニ三十戸天府洞ニ十六戸集合セルヲ見ルノミ全島ノ韓民ハ昨年ノ調査ニ拠レハ四百四十七戸ナリシモ現今ハ五百五十六戸トナリ人口三千三百四十名ヲ有スト云フ
(本邦人在留民県別人員及営業種別併に昨年度輸出入表を添付す)

第三、本島物産
槻(欅:けやき)梅、五葉松、黄柏(きはだ)、「テンポ」梨、「タブ」、「ブナ」、山●、桐、白檀、椿、桜、木耳、黐(モチノキ)、桑、黄柏皮、大豆、大麦、胡豆(そらまめ)、小麦、馬鈴薯、鮑、鯣(するめ)、海苔、天草、甘(籊:てき=やまどり?)、郭鳥等ナリ参考(昨年収穫セシ大豆六千石、胡豆二千石、大麦四千石、小麦三千石以上トス)郭鳥ハ其ノ形状鷗(かもめ)ニ類似シ昼間三十海里以外ニ遊泳シ夜間本島森林ニ生息ス土民ハ暗夜山上ニ焚火ヲ為シ四方ヨリ集合スルヲ撲殺シ油ヲ搾リテ●燈ニ用ヒ肉ハ乾シテ食用ニ供ス

第四、船舶碇泊場
本島ハ元来碇繋場ニ適スル江湾ナク寧ロ皆無ト云フモ可ナリ、然レトモ道洞ハ全島中ノ良港ニシテ湾内ノ幅員何レモ七十間余ニシテ平均深サ十尋ナリトス、而シテ東西ノ両岸ハ巍々(ぎぎ:高いの意味)絶壁ナレハ碇泊船ハ北巌石ニ繋留シ僅カニ数艘ヲ碇泊スルニ足ルノミ故ニ滞留ノ船舶ハ一時渚邊ニ曳キ上ゲ出荷ヲ待テ再ヒ出港セシムルコトトナス其ノ狭隘ニシテ大船巨船ノ出入スル能ハサルコト推シテ知ルヘキナリ、マタ一朝東南及南西ヨリ強風吹荒ミタル時ハ忽然激浪ヲ起シ甚シキニ至レハ泡沫浜邊ノ住屋ニ飛ヒ来リ其猛勢当ルヘカラサルヲ以テ港内碇繋船舶ノ衝突危険ナルコト眞に名状スヘカラサルナリ然レトモ他ニ港湾ナキヲ以テ本島ニ出入スル船舶ハ悉ク同港ニ寄泊ス殊ニ本邦人ノ多数ハ此地ニ在留シ輸出入ノ貨物ハ總テ此地ニ集散セリ、苧洞ハ本島ノ東面ニ位スル停船場ナルモ極メテ狭隘ナルヲ以テ船舶ヲ碇繋スルニ足ラスト雖トモ西南風ヲ避ケ一時寄泊スルニ便ナリ、沙洞ハ港湾ニアラサルモ海底砂礫ニシテ岩礁ナキニヨリ船舶ヲ投錨碇泊スルニ便ナルヲ以テ汽船ハ總テ此地ニ碇泊スルコトトナセリ其他通亀尾、南陽洞、台霞洞、玄浦、竹岩等ノ小曲江アリト雖トモ皆海底ニ岩石暗礁多クシテ船舶ノ碇泊ニ適セスト云フ以上列記スルカ如ク本島ニハ良港ナキヲ以テ汽船ノ寄航スル時ハ常ニ風位ニ従ヒ碇泊位置ヲ轉變避難セサルヲ得サルナリ

* 一間・一尋は六尺(約1.818メートル)

第五、本邦在留民ノ概況
往昔石州濱田,伯州境地方ヨリ本島ニ渡リ樹木ヲ伐採シ輸出セシコトアリ又明治十二三年中大阪ヨリ東京社ハ多数ノ樵夫ヲ連レ来リ槻ヲ伐採シテ京都某寺ノ建築用材ニ供シタルコトアリシモ其頃迄ハ無人島ナリシニヨリ在住シテ製材或ハ漁業ニ従事シタルモノナシト雖トモ其後明治二十五年ニ至リ隠岐ノ国ヨリ製材者数名渡航シ来リ始テ假小屋ヲ構ヘ永住スルニ至レリ然レトモ今ヤ初航者ハ僅ニ製材兼鍛冶業島根県平民脇田庄太郎一名現住シ其他ノ渡航者ハ長クモ七八年ニ過キス、然リ而シテ爾来年々在留民ノ増加スルニ従ヒ不良ノ徒入込ミタルヲ以テ取締ノ必要起リ明治三十年四月日商組合会ナルモノヲ組織シ在留民ノ安全ヲ保持スル為メ二名ノ感じヲ置キ之カ取締ヲ為シタリシモ人口頓(とみ)ニ増加シ従来ノ取締法ニテハ到底整理スヘカラサルノミナラス渡航者ハ概ネ無智文盲ノ儕(ともがら)輩ニシテ二尾紛擾(みだれる)ヲ起シ強ハ弱ヲ凌キ智者ハ愚者ヲ欺キ甚シキニ至テハ兇器ヲ携ヘ暴行ヲ加ヘ他人ノ物件ヲ強奪セシコトアルモ之ヲ制止スルモノナク非常ニ良民ヲ苦ムルコト少カラサルニヨリ在留ノ重立タル有志者ハ明治三十四年七月在留民一般ニ議リ更ニ日商組合規約ヲ制定シ無給ノ組合長一名同副長一名有給取締一名ヲ置キ其下ニ名誉議員十五名ヲ選挙シ在留民ノ事故ヲ合議裁決シテ従来ノ陋(狭い・卑しい)習ヲ一洗セント欲シ刑事ニ係ルモノハ拘置監ヲ設ケ同所ニ留置シテ前非ヲ悔悟セシメ重キ者ハ本邦最近ノ警察署ニ護送スルコトトナシテ規約ヲ励行シタリ、本年一月四日組合員中ニ紛議起リ元組合長ハ組合ヲ破壊セント欲シ自己ノ使役スル多数ノ木挽及ヒ労働者ヲ煽動懐従セシメ脱会ヲ申込ミタリ依テ組長取締等ハ種々調停ノ道ヲ盡(つくす)シタレトモ遂ニ調停スルコト能ハスシテ決然其脱会ヲ認可シタリ、茲(ここ)ニ於テ在島ノ本邦人ハ全然二派ニ分立シ脱会者ハ全員四分ノ三強ニ達シタルニヨリ組合員ハ僅ニ四分ノ一トナリヌ、其後商取引ハ勿論私交上相反目スルニ至リ 日商組合ハ実に萎微振ハサリシモ飽(あ・く)迄正義ヲ主唱シテ多数ノ反対当ニ屈従セス維持シタリシカ外務省ヨリ警察官駐在所ヲ設置セラルルコトトナリシ以来本年四月二十三日続々前非ヲ悔ヒ再ヒ入会ヲ申込ミタルニ付組合員モ其請ヲ入レ脱会者ヲシテ悉ク入会セシメタリト云フ、而シテ本年四月二十八日以降ハ警察官駐在所創設セシニヨリ従来ノ取締規約ヲカイセイスルコトニ決定セリ

第六、商況
本島ニ在留スル日韓人ハ一般現金取引ヲ為スコトハ稀ニシテ互ニ物品貿易ヲ主トス故ニ彼我両民ハ細大トナク大豆ヲ以テ通貨ニ代用セリ、韓人向ノ輸入品ハ金巾、天竺木綿、甲斐絹、紡績糸、石油、燐寸、酒、鹽(しお)、小雑貨類ナルモノ少数の需要者ナルヲ以テ利潤少シト云ヘリ、其他本邦人間ニ於テ日用品ヲ売買スルノミ輸出品中大豆、胡豆、小麦、黄柏皮、少量ノ黐ハ韓人ヨリ其他ハ本邦人ノ製材及海産物ナリトス参考 槻ハ海岸附近及運送ニ便利ナル場所ハ悉ク伐採シ今ヤ奥深ク入ラサレハ良材ヲ得ルコト能ハサルノミナラス全所ニ於テ製材セハ道洞迄運搬スルニ非常ナル経費ヲ要スルヲ以テ本邦ニ輸出スト雖トモ利潤ヲ見ルコト能ハサルニヨリ爾来ハ栂五葉松「テンポ」梨ノ類ヲ製材ニ着手スルト云ヘリ物價(価)●ニ職工賃及昨年度輸出入表ヲ添付ス

第七、漁業ノ状況
本島ノ漁業季節ハ例年三月ヨリ九月迄ニシテ収穫物ハ鮑、鰒(ふぐ)、天草、海苔、若芽ノ数種ニ過ギス、漁業者ハ多ク熊本ノ天草、島根ノ隠岐、三重ノ志摩地方ヨリ渡来ス而シテ
韓人漁夫ハ皆無ノ有様ナレトモ毎年全羅道三島地方ヨリ多数ノ漁夫等渡来シテ海岸ニ満生スル若芽ヲ採取セリ本年ハ天草隠岐ノ漁業者都合水潜器船八隻道洞ヲ本拠(?)ト定メ又志摩ノ蜑船(タンセン・あま船)二隻天草ノ海士船一隻ハ苧洞ニ仮小屋ヲ構ヘ何レモ全島ノ海岸ヲ巡漁セルモ今年ハ昨年ニ比シ餘程不漁ナルニヨリ利潤オオカラサル見込ナリト至ヘリ、又本島ノ正東約五十海里ニ三小島アリ之ヲリャンコ島ト云ヒ本邦人ハ松島ト稱ス、同所ニ多少ノ鮑ヲ産スルヲ以テ本島ヨリ出漁スルモノアリ然レトモ同島ニ飲料水乏シキニヨリ永ク出漁スルコト能ハサルヲ以テ四五日間ヲ經ハ本島ニ歸港セリ

第八、交通
本島本邦間ノ交通ハ毎年三月ヨリ八月迄ニシテ馬関(下関)、境、濱田、隠岐ノ西郷港ニ和船ノ往復スルコトアルモ九月以降ハ常ニ風浪激烈ニシテ航海スルコト能ハサルニヨリ交通皆無ノ姿ナリトス、依テ在留民ハ毎年三月初航ヨリ増員スルモ九十月ニ至レハ便船毎ニ帰国スルモノ多ク一昨年ノ如キハ僅ニ九十九名昨年ハ三百五十名越年シタリト云フ、然ルニ昨年ノ如キハ輸入米ノ少ジャルス為メ十二月頃ヨリ糧食ニ欠乏生シ在留民ノ大半ハ草根、木皮ニ大豆ヲ加ヘ常食トナシ非常ニ困難セルニヨリ本邦ニ便船ヲ特発シ食糧ノ輸入ヲ求メタリシモ冬季ノ航海ハ危険ナルヲ以テ之ニ応スルモノナク終ニ境港三光社ニ依頼シ漸ク本年二月十六日汽船第二三光丸(総噸数百六十噸)ニテ食糧ヲ積来リ在留民ノ需要ニ充テタルモ少量ナルニヨリ引続キ三回食料輸入ナサシメタリト云フ本島ヨリ釜山及境濱田馬関等ヘ和船ニテ航海セハ約ニ昼夜半汽船三光丸ハ境港迄一昼夜ヲ要ス然レトモ常ニ強風多キニヨリ一ヶ月中出帆スルニ足ルヘキ天候ハ五六日ニ出テス又当港ヲ出帆スルモ進航中風位ヲ変シ強風吹荒ミ目的地ニ到達スルコト能ハスシテ多ク越前敦賀三国但馬丹後佐渡能登ニ漂着シ或ハ海上ニ於テ破船シ是迄無事ニ直航シタル者僅少ニシテ二航海ニ一回ハ必ズ何レニカ漂流シ実ニ危険ナリト云フ、又
韓国本土間ノ交通船ハ皆無ニシテ在島韓民等協同以テ本邦和船ヲ雇入レ来島スルモノアスルモノアルモ一ヶ年ニ三回ニスキス、又夏期二至レハ全羅道三島地方ヨリ若芽採収ノ為メ二十艘内外来島スルコトアリト雖トモ荷物満載セハ何レモ本土ニ帰航シ其他航海用ニ適スル船舶ヲ所有スルモノナシ然レトモ本年四月十一日小宮萬次郎持船太平丸ハ韓人向雑貨及多数ノ韓人ヲ便乗セシメ釜山ヲ発シ五月一日当地ニ到着シ該船ハ今ニ陸上ニ曳上ヶ韓人ノ出荷ヲ待チ居ル(参考)本年五月中当港出入しタル船数及ヒ場所ハ左ノ如シ入港ノ和船ハ釜山ヨリ一艘長鬚(?)牟浦ヨリ二艘隠岐ヨリ五艘赤間関ヨリ一艘境ヨリ二艘合計十一艘ニシテ出港ノ和船ハ赤間関ヘ二艘博多ヘ一艘長鬚(?)牟浦ヘ一艘境ヘ汽船一艘合計五艘ナリキ

第九、気候
本年五月中平均華氏六十五度ナリシモ七八月頃ニ至レハ日中百度内外ヲ昂降スルモ朝夕ハ七十度内外ニシテ冬期ハ二十度内外ニ降ルコトアリト云フ、然レトモ寒気ハ凛烈ナラスシテ本邦人初渡以来曾テ水甕ノ破裂セシコトナシト云ヘリ降雪ハ十二月頃ヨリ二月頃迄ニシテ毎年四尺以上七尺降リ積ルト云フ

第十、伝染病
本島ニ於テ天然痘、麻羅里亞熱ノ外曾テ他ノ疾病ニ罹リタルモノナシ然ルニ昨年?七月十九日赤痢患者一名特発シタルモ医薬ハ勿論消毒剤ノ用意ナカリシ為メ終ニ病毒ハ伝播シテ十四名ノ患者ヲ発生シ内二名ハ死亡シ残リ十二名ハ同年?八月末ニ至テ全治セシト云フ依テ本年五月十五日戸毎ニ大清潔法ヲ施行セシメタリ

参考ノ為左ニ組合規約ヲ掲グ
組合規約
第一條 本組合ハ鬱陵島日商組合ト称シ在島日人合議ヲ以テ組織シ事務所ヲ道洞ニ設ク
第ニ條 本組合ハ組合長副長取締ノ三名ヲ置キ本組合一切ノ事務ヲ鞅掌シ且ツ公平無私民事刑事ノ訴訟ヲ裁判シ賞罰ヲ行フノ権利ヲ有セシム
第三條 組合長副長取締ノ下ニ名誉職議員十三名ヲ置キ組合長取締ヲ補佐シ且ツ本組合ヲ監督セシム任期ハ満一ヶ年トス
第四條 組合長取締ハ議員ヨリ推撰シ議員ハ一般組合員ヨリ撰挙スヘシ
第五條 以上ノ議員ニシテ帰国スヘキ必要又ハ病気其他正當ノ理由アリテ辞任スルトキハ直チニ補欠選挙ヲ行フヘシ
第六條 本組合二加盟セント欲スルモノハ本籍氏名ヲ事務所ニ届出規約ヲ承認シ名簿ニ記名捺印スルト同時ニ登記料トシテ韓銭百文ヲ納ムヘシ
第七條 船舶入港ノ時ハ船長ハ直チニ積荷目録及便乗者ノ氏名当事務所ニ届出ツヘシ且ツ出航ノ時モ亦同シ特ニ便乗者ハ取締ノ認可ヲ得ルニ非レハ便乗セシムヘカラス
第八條 本組合ノ費用ハ毎月四十圓ヲ超過セサル範囲ニ於テ一般組合員各民等ニ割当徴集スヘシ取締ハ其翌月十五日限リ前月ノ収支勘定報告スヘシ
第九條 本組合ニ加盟セサル者ハ左項ノ場合ヲ除クノ外都テ取引上絶交スヘシ 国辱事件   船舶及生命ノ危急
第十條 本組合員ニシテ韓人トノ関係及取引上彼ニ対スル所為事過酷ニ失シ曳テ一般組合員ノ安寧秩序に障害アリト認メタルトキハ本組合員ハ極力干渉シ場合ニ依リ退韓ヲ命スヘシ
第十一條 本組合ハ相互信義ヲ主トシ可成競争的行為ヲ禁シ亦己ヲ利スル為メ暗々他人ヲ誹議シ訛言ヲ設ケテ其人ノ名誉ヲ毀損スヘカラス且ツ他人ノ危急ヲ見テ知ラサル爲シテ避クヘカラス
第十二條 組合員間都テノ契約證ニ対シ取締ノ登記ヲ経タルモノニ限リ原被間直接ニ強制執行スルコトヲ得 但此場合ニ於テハ先ニ取締ニ届出即時ニ指揮ヲ乞フヘシ
第十三條 本規約ノ発布前後ニ論ナク前條ノ登記ヲ経サル契約證又口頭ニ止メテ定約ヲ爲シタルモノニ付起訴セントスルモノハ先ニ裁判費用トシテ五百文及脚夫賃一里毎ニ二百文ノ割合ヲ以テ全納スヘシ組合長ニ於テ受理セシ上ハ可成的至急ニ判決ヲ與ヘ而シテ家賃有限執行スヘシ(家資執行ハ一名ヲ事務所ヨリ特派スヘシ)該費用ハ競売立曾者ノ日當ト同シ 但本條ノ費用及競売立曾者ノ日當即チ一日五百文ツ々ハ追テ敗訴者ヨリ出金セシム
第十四條 前ニ條ノ場合ニ於テハ被告人カ一周間ヲ支フヘキ喰料及気候ニ相當スル衣類一着寝具又就寝スル丈ケノ一室ヲ除キ他ノ動産一切ヲ差押ユヘシ 但差押ヘタル物件カ被告ノ所有ニアラサルコト明瞭セシ上ハ之ヲ返付スヘシ
第十五條 若シ財産ヲ隠匿シタルモノハ詐欺取財ノ罪トナル又被告ノ依頼ヲ受ケテ之ヲ補佐セシモノハ共犯者トシテ一等ヲ減ス
第十六條 刑事ノ告訴事件ニ付テハ裁判費用納ムルヲ要セス組合長直チニ受理スヘシ
第十七條 犯則者ヲ密告セントスルモノハ直ニ事務所ニ訴フヘシ事務所ハ該訴者ノ氏名ヲ発表セスシテ其犯則ニ依リテ得タル物件又ハ罰金ノ五割以上ヲ密告者ニ與フ
第十八條 道洞ニ一個ノ匿名投書凾ヲ設ケ一般ノ犯則者安寧ニ障害アル件伝染病患者隠蔽等ヲ投書セシム取締ハ時々開凾スヘシ
第十九條 葛藤事件ニ付起訴セントスルモノハ裁判費用ヲシテ一貫文ヲ事務所ニ前納セシム追テ敗訴者ヨリ出金セシム
第二十條 組合員ハ義務ヲ弁済スルニ非レハ帰国ヲ許サス 但病気又ハ犯罪其他止ムヲ得サル事故ニ依リテ退去セシムル時ハ此限リニアラス
第二十一條 帰国者ニシテ負債ノ義務ヲ負フモノト雖トモ債主ヨリ其旨事務所ニ訴ナキトキハ事務所ハ其責ニ任セス故ニ道洞在留組合員ハ勿論他所ニ在ル組合員ハ船舶出港ノ際特ニ注意スヘシ
第二十二條 船舶ノ契約期日ヲ経過シ貨物ノ積不足ヲ生シタルトキハ其多少ヲ論セス左項ノ順序ニ依リ日待費用トシテ違約者ヨリ本船ニ支払ハシム
第二十三條 組合員ハ決シテ自己ノ人権ヲ奪ハルルコトナキニヨリ例ヘハ商品ノ売買又組合員間ノ取引上又職工等ニアリテハ雇主ニ対シテモ謂ハレナキ束縛ヲ受クヘカラス其権利ノアル所ハ十分主張スヘシ
第二十四條 組合員ハ他人ノ雇入タル職工又ハ契約アル漁業者又ハ豫(あらかじ)メ契約アル物件等卑劣手段ヲ以テ己レニ引込ムヘカラス
第二十五條 組合長取締等ノ判決ヲ與ヘタル裁判ニ対シテ不服ヲ唱フルモノハ更ニ議員半数以上合議ノ裁判ヲ乞フヘシ
第二十六條 組合長以下議員ニ関係ヲ有スル被告事件ニ就テハ本人ハ席ヲ避ケシメ合議ニ與カルヘカラス
第二十七條 韓人等ノ物件ヲ窃収シ又ハ畑物ヲ荒ラシ婦女子ニ対シテ猥褻に渉ル言語及所置セルモノハ情況ニヨリ退韓ヲ命スヘシ
第二十八條 伝染病患者隠蔽夜間十二時歌舞喧争他人ノ安眠妨害火ヲ失シ風吹ニ露天ニテ火ヲ燃シ集合ノ出席ヲ遅延シ飲料水ヲ不潔ナラシメ井戸近傍及河川ニ不浄物汚穢物散布スヘカラス且ツ他人ノ足駄ヲ無断二使用スヘカラス
第二十九條 組合員間ノ取引上ハ毎月末勘定トス 但各信用券ヲ発行スルハ妨ナシト雖トモ之ヲ受クルト否トハ當事者ノ適宜タルヘシ
第三十條 本組合ニ於テ特ニ認可ヲ與ヘタルモノハ公衆ニ対シテ実行スルハ妨ナシ例ヘハ木挽組合取締法又ハ船据費用徴集法ノ如シ
第三十一條 重罪ヲ犯シタルモノハ逮捕シテ日本ニ護送シ最寄警察署ニ引渡スヘシ
第三十ニ條 本規約ヲ更正セントスルトキハ組合長以下議員半数以上ノ同意アルニ非レハ訂正セス
第三十三條 第一條ヨリ逐條本條ニ至リ固(もと)ヨリ十分盡(つく)ス能ハサルニ依リ先ツ組合長取締等ニ一任シ奥ヘシト雖トモ一大的事件及本條ニ掲クル以外ノ事件ニ至リテハ組合長以下議員曾議ヲ以テ実行スヘシ
第三十四條 本組合費用民等割月々事務所ヨリ納付通知アリシ日ヨリ五日以内ニ納付セサルモノハ直ニ強制執行ヲ爲スヘシ

罰則
第三十五條 本規約ノ違反者ハ民事々件ニアリテハ相當ト認ムル損害要償罰金ニアリテハ百文以上五貫文以内トス船舶出港ノ際負債ノ義務アルモノヲ隠匿シテ便乗セシモノハ船長ヲ相手取リ負債ノ義務ヲ負ハシム
 但罪質ノ情状ニヨリ酌量加減スヘシ
右之通り合議ノ上相結ニ候也
明治三十四年陽八月八日本
組合員役員名
組合長 畑本吉造
組合副長 片岡吉兵衛
取締 深田甚太郎
議員 福間兵之助
同  宇野若次郎
同  古木新作
同  中西秋太郎
同  脇田庄太郎
同  天野源蔵
同  門満太郎
同  碇鉄次郎
同  井上太吉
同  藤野金太郎
南陽洞詰 同  由浪乙次郎
黄土浦詰 同  谷富之助
昌洞詰   同  吉井留次郎
〆十六名也

一、鬱陵島在留本邦人県別表
県別      士族          平民               合計  
       男  女       男      女        男       女
北海道             一               一
奈良県             一               一
東京都                    一                一
京都府
大阪府             五      ニ        五       ニ
神奈川県
兵庫県             四      一        四       一
長崎県              ニ      一        ニ       一
新潟県             一               一
福井県             ニ      一        ニ       一
三重県            十一     二八      十一      二八
愛知県
静岡県             一               一
山梨県
滋賀県  一                          一
岐阜県             ニ               ニ
石川県             一               一
島根県  一        ニ三二      七五    ニ三二       七五
鳥取県            五三       七     五三        七
岡山県              六       三       六        三
広島県            十二       一     十二        一
山口県              七       三       七        三
徳島県             一               一
高知県             一               一
愛媛県             三               三
福岡県             四               四
佐賀県             ニ               ニ
大分県            ニニ      三      二二        三
熊本県           四三             四三
鹿児島県 ニ                         ニ
宮崎県             一              一
沖縄県
小 計   四       四一六    一二六     四ニニ    一二六
合 計   四          五四四             五四八

一、鬱陵島在邦留本人職業別表(五月末調査)
営業別 本月現在
貿易     ニ四
菓子       ニ
木挽    九五
材木     五
蜑(あま) 六六
仲買      三
魚       一
鍛冶     七
潜水器    八
黐製造   三
雑貨     五
日雇    三三
斬髪     ニ
船乗    六〇
下駄     一
酒小売   三
大工     四
農業     一
雑業   一六
蜑船     三
(備考)本表中貿易ノ欄ニ四トアレトモニ三ヲ除く外何レモ其資力僅カニ千圓内外ニ過キスシテ貿易商オシテ見ルヘキ程ノモノニアラサレトモ其ノ実貿易ナルヲ以テ本欄ニ記入シタルモノナリ

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